遺伝学(いでんがく)は生物の遺伝現象を研究する生物学の一分野である。遺伝とは世代を超えて形質が伝わっていくことである。
遺伝現象は古くから知られていたが、遺伝する形質(表現型)は交雑とともに混じりあっていくと考えられていた。メンデルはエンドウマメの形態に注目して交配実験を行い、形態の遺伝が一対の遺伝粒子を仮定することで説明できることを発見した。詳しくはメンデルの法則を参照。またウォルター・S・サットンが染色体の観察から遺伝の染色体説を提唱し、モーガンらが遺伝学的手法を用いて遺伝子が染色体上にあることを証明した。
染色体は DNA やタンパク質から構成されており、当時、遺伝子の正体はタンパク質であると考えられていた。アベリーやハーシーらの実験により DNA が遺伝情報を担っていることが明らかにされた。ワトソンとクリックらによるDNAの2重らせん構造の発見後は、DNA上にある遺伝子の物質的な側面からの研究が発展し分子生物学とよばれる研究分野が開拓された。遺伝子の機能の解析は生物学のほとんどの分野と関係がある。
一方、個体群における遺伝子頻度の変化を、特に自然選択の視点から実験、観察、および数学的手法にもとづいて研究する分野は集団遺伝学と呼ばれる。
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日本の遺伝学 [編集]
日本の遺伝学の歴史は古く、日本の遺伝学の代表的な学会は日本遺伝学会であり、毎年一回秋に年会を開き、2007年で79回目を迎えた。また遺伝学を中心とした研究を推進する機関として、遺伝学研究所が静岡県三島市にある。研究所発足当初は地元の住民との軋轢があり職員がトマトをぶつけられる事件もあった。現在は住民との良好な関係を築いており、地元では「遺伝学」といえば「遺伝学研究所」を示すまでにいたる。近年の遺伝学は、DNAの塩基配列のみをあつかう進化理論中心のドライな研究と遺伝子やゲノムの機能を解明するウェットな研究に2分化され解離しつつある。進化理論の代表的な研究者は遺伝学研究所の所長をつとめた木村資生、その「中立説」は進化理論に大きな影響を与えた。なお現在この中立説は修正を余儀なくされ、現在は、「ほぼ中立説」と名前を変えている。 またウェットな研究分野としての代表者は、多数いるが、その中心人物としては、岡崎令治と小川英行(現岩手看護短大学長)がいる。岡崎令治はDNA複製のラギング鎖合成時にRNAの短いフラグメントの形成が起こることを発見し、岡崎フラグメントと名づけた。これによりノーベル賞を期待されたが、癌で世を去った。妻の岡崎恒子が研究を続け、ユネスコ女性科学者賞をとりその成果を発展させている。小川英行は日本で初めて遺伝的組換えに必須な遺伝子recAを大腸菌から発見した。その後、真核生物の遺伝的組換えにかかわるRad51の機能解明、Mre11の発見など重要な研究を発表し、遺伝子がどのように子孫に伝わり、どのように父親と母親の遺伝子が混ぜ合わされるのかの遺伝学の重要な問題の解明を行った。
方法論としての遺伝学 [編集]
生物学の方法論においては、遺伝子操作や突然変異の解析によりその機能を調べるアプローチ(遺伝学的手法)を遺伝学と呼ぶことが多い。この場合の対義語は生化学や生理学となる。
遺伝学的手法は二通りある。突然変異体の表現型に注目して、その原因遺伝子を同定し、機能を明らかにしていく古典的な正の遺伝学 (forward genetics) 、逆に遺伝子を先に単離し、遺伝子破壊等の手法を用いて機能を調べる逆遺伝学 (reverse genetics)である。前者をヒトに応用した疾患の解析方法が連鎖解析や関連解析である。多くのメンデル型疾患において連鎖解析によって原因遺伝子が特定され、診断や治療に寄与している。また後者はPCRやシーケンサーといった技術の進歩によって近年盛んになってきた手法であり、特定の機能を有するタンパク質を同定し、その表現型から予測される疾患との関連を調べる手法である。